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2018.11.30 理事長

くすりとりすく

こんにちわ、理事長の塚本です。

くすりとりすくについて今回お話させて頂きます。

先日、膀胱炎症状で過去に何回か受診されたAさんが来院されました。
良く言えば、べらんめい口調で姉御肌の明るい方です。
尿検では潜血陽性で、自覚症状からも尿路感染症と診断しニューキノロン系の抗菌薬を処方し、
繰り返す既往から念のため培養もとっておきました。
1週間後の再診察で培養の結果、大腸菌が10の6乗個、検出され、診断は確定。
幸い感受性もあり、症状改善のため治癒となりました。
そのAさんの帰り際「このあとBっていう娘がかかるけど、あたしの知り合いだから、キチンと診てやってね!」といわれました。
そして、次に診察室にいらしたのがBさん。
Bさんも3日前からつづく膀胱炎症状で来院されたのですが、問診票に「小児喘息、アスピリンで喘息、抗生物質でじんましん」と書かれています。
簡単に病歴を確認すると、アトピーもありアレルギー体質のようです。
そばによるアナフィラキシーの既往もあり、エピペンの所持もしていました。
そして、おどろいたのが「昨日、Aさんから抗生物質をもらってのんだ」というのです。
それを聞いて、一瞬、めまいがしました。
Bさんに、抗生物質をのんで、アレルギーやじんましんなどの症状がないか確認して、大丈夫だったようです。
Bさんも尿検をして、潜血(±)、蛋白(±)pH7でしたので、やはり尿路感染と診断しました。
念のため、培養検査も提出しました。
乗りかかった船です。
Bさんにも、Aさんと同じニューキノロン系抗菌薬を4日分処方し、4日後に再来するよう、また、副作用やアレルギーがでたときの
対応を説明しましたが、これは、エピペンを処方していただいた先生がしっかりお話しされているようで、とてもよくわかっておいででした。
果たせるかな、4日後、Bさんは再来してくれました。
処方薬で症状が改善したことを確認し、トラブルはなかったと聞き一安心です。
残念ながら、培養検査では起因菌は確認できませんでした。
前日に抗菌剤を服用してしまったからでしょうが、これで、重症でなかったことと、ニューキノロン耐性菌でなかったことはわかったので、その説明をしました。
ひととおり話をしたところで、なんとAさんが診察室のドアをがらっとあけて、顔を出したのです。
「どう? 治った?」と聞くAさんに、Bがうなずきます。
気をよくしたのか、Aさんは、許可もなく、ぴょんと診察室に入って来て
「ほら、B、私の言うとおりでしょ!早く治ってよかったね!」
私は、(これは良くない!)と思い「どういう事ですか?」とあえて問いただしました。
そうしたら、Aさんが自慢げに「私と同じ症状だから、すぐピンときたのよ、膀胱炎だって!だから、私の薬を1回分だけ、わけてあげたの」
私は自分を落ち着かせるために、1回、大きく深呼吸をしました。
「Aさん、Bさん、今からお二人に、少々厳しい話をします。大丈夫ですか?」
二人は顔を見合わせ、Aさんは目をパチクリさせながら、Bさんは不安げにゆっくりうなずきます。
「まず、Aさんは、医療系の国家資格をなにかお持ちですか?」
「ううん、何も資格なんかないわ、一般人よ」
「Bさんが、いろいろなアレルギーをお持ちで、過去に抗生物質でトラブルになったことを知っていましたか?」
「ええっ、そうなの? 知らなかったわ、やだ、言ってよ水くさいわね!」
「職場の方には言ってあるので、みなさんお知りだと思います・・・」Bさんは蚊のなくような声でいいました。
「Aさん、あなたはよかれと思ってBさんに抗生物質を与えたのでしょうが、この行為には3つの問題があります。」
「3つ!?」
「第1に、他人に医薬品を投与してよいのは、日本の法律では医師のみです。
第2に、Aさんが他人に譲り渡したものは、市販品ではなく保険薬です。
第3に、Bさんにその薬が投与されたときの危険性を把握していませんでした。」
「・・・・・・」Aさんは一気に鼻じらみましたが、私はつづけます。
「保険で処方された薬品は、確かに、Aさんは一部負担金を払っていますが、のこりは税金です。
あなたは、税金を正しくつかわずに私的流用したわけです。これって問題じゃないですか?」
「税金っていったって・・・」
「でも、それよりも、もっと大きな人道的問題があります。3番目の薬の危険性です。
あなたは、自分でもよくのみ、何も問題がないからといって、お薬の危険性を軽視していませんでしたか?
アレルギーのあるBさんにとっては、それが危険な毒薬になる可能性もあったわけです。もし、あなたが渡した抗生物質でBさんが
喘息発作や最悪、アレルギーからショックにいたり死亡したりしたら、きっと残された家族はあなたのことを訴えたと思いますよ。」
「え、そんなショックだなんて、・・・だって安全だから、先生はわたしに処方したんでしょ!?」
「Aさんにとって安全でも、Bさんにとってそうではない可能性があるのです。医薬品には、必ず、副作用やアレルギーなどのリスクが
存在します。」
「リスク・・・」
「そうです、くすり を 逆さまから読むと リスク。私は医学部時代に教授からそのように習いました。」
Aさんは、しばらくうつむき、そして意を決したように顔をあげました。
「Bさん!ごめんなさい、わたし、あなたに元気になってもらいたくて、膀胱炎の辛さはよくわかっているつもりだったから・・・」
「いいえ、Aさん、大丈夫です。こちらこそ・・・」
「先生、ごめんなさい、もうしません。人に、たとえ家族であってもリスクはきちんと受け止めないと!心配だからといってあだになったら意味がないことですもの。次からは、先生のところにすぐ罹るように言うわ!」
「Aさん、そんなに気になさらないで、おかげでよくなったんですもの」
「いいえ、ダメよ! くすりはリスク! 明日から、みんなに言うわ!」
「そうですね、自然災害や緊急事態で、融通やむをえない場合もありますが、そんな時でもリスクを理解しておいて頂くことが大事だと思います。だって、救いたいと思う気持ちは正しいのですから。」

2018.11.30 理事長

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